サンタクロースがやってきた!

 099981サンタクロースの存在を知ったのは、4歳のときである。その日、同じ町内の祖父母の家に泊まっていた。まだ暗かったような気がするから冬の早朝だったのだろうか。目が覚めて祖母のもとへ行くと、「サンタさんがきたよ」と言う。キョトンとしているとキティちゃんのぬいぐるみを渡された。私と世代が近い人はご存知だろう、横向きのキティちゃんである。それでサンタクロースを知った。見ず知らずの子どもにプレゼントをくれるなんて奇特なおじさんだなあ、というような印象を幼心に抱いた気がする。今思えば、両親も粋な演出をしたものだ。私はすっかりサンタクロースの存在を信じた。 

 我が家へやってくるサンタクロースの正体を知ったのは小学3年生のときである。リクエストしていたのは、家族で遠出をしたときに寄ったデパートの書店で見かけた本だった。けれども町内の本屋にはそんなラインナップがあるはずもない。当然、今のようにAmazonなどないし、クリスマスの朝、枕元に置いてあったのは全然違う本だった。でも、サンタさんにもいろいろ都合や事情があるのだろう、とさほど気には留めなかった。そういう子どもだったのである。それよりも、サンタに書いた手紙の返事があったことに興奮した。胸の高まりを抑えつつ手紙をひらいた瞬間、私の夢は打ち砕かれたのだけれど。そこには筆ペンで書かれた達筆な字が並んでいた。しかも縦書き。「ああ、お父さんか……」と思った。

 その翌年だったと思う。サンタに何をお願いするつもりなのかと5歳上の兄が聞いてきた。兄は小遣いをためるということに長けていて、私からすればちょっとした小金持ちだった。そして私はその時点で、兄がサンタクロースになるつもりだなと感づいた。私はチョコやキャンディの詰め合わせをリクエストした。といってもただのスーパーで売っているようなお菓子ではない。女の子向けの雑貨などを扱うファンシーショップで1個10円ぐらいでバラ売りされている、包み紙もポップなオシャレなチョコやキャンディである。翌日、私の枕元には私が望んだとおりのキャンディやチョコがぎっしりつまった小箱が置かれていた。中学生の兄があんな女の子のお店に入るのは恥ずかしかったんじゃないだろうかと思い、何よりもその気持ちがうれしかったのを覚えている。サンタクロースがくれたことになっているから兄には何も言わなかったが、喜んでいる私を見て、兄は満足そうな顔をしていた。 

 兄のサンタクロースはひとつ下の弟のところにもやってきた。弟はまだサンタクロースを信じていた。手紙の一件のあとも、私は弟に何も言わなかったんだろうと思う。我ながら出来た姉である。

 さて、弟がサンタクロースにお願いしたのはドリルロボであった。乗り物がロボットに変身するというこの玩具シリーズを弟はコレクションしていた。当時で1つ600円くらいだったと思う。繰り返しになるが、Amazonのない時代である。町内の小さなおもちゃ屋にはドリルロボの在庫がなかったらしい。サンタクロースから弟へ届いたのは、ドリルロボではない違うロボ2体だった。

santa-back弟はこれに満足しなかった。母が朝食の用意をしているのを待っている間、食卓で父に不満をぶつけた。

「ねえ、どうしてドリルロボじゃないの? ボクはサンタクロースにドリルロボを頼んだんだよ」
 
父は少し困ったような顔をして、
「どうしてかな、サンタさんにも都合があるんじゃないか。でも、違うロボが来たんだからいいじゃないか」となだめた。
 
兄を見ると、気まずそうな顔をしていて、ちょっと気の毒になった。
 
それで落ち着けばよかったが、弟は納得しなかった。

「サンタクロースなのに間違うの? ボクはドリルロボって言ったんだ。なのに違うじゃないか。なんでドリルロボじゃないんだよぅ」

父は気が短いのである。不穏な空気を感じ、私は心の中で、「ドリルロボ、ドリルロボ言うんじゃないよ、このバカ」と毒づいた。

「ねえ、なんで。ドリルロボが欲しかったのに。なんで違うの?」
 
弟は訴え続ける。どうも納得いかないのである。

「ねえ、ドリルロボ……」

「ドリルロボ、ドリルロボうるせえな! これはなあ、お兄ちゃんがサンタクロースになってお前のために買ってくれたヤツなんだぞ! それを文句ばっかり言いやがって、何なんだお前は! このバカッ!」

父がブチ切れた。
兄は思惑が外れてがっかりしていた。
私は、あちゃあ、と思った。
そして、弟はギャン泣きした。父に怒られたショックと、サンタクロースの正体を知ってしまったショックとのダブルパンチである。いや、ドリルロボが手に入らなかったから、トリプルパンチか。
 その年のクリスマスの朝は、ちょっとしたカオスであった。
 それを境にサンタクロースはぴたりと我が家に来なくなった。

 あれから30年たった今年のクリスマス。
 弟から結婚式の招待状が届いた。

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