バームクーヘンはバウムクーヘンにあらず

 ぶどう酒レストランでおいしいぶどう酒を飲んだ。ただ単にワインとメニューに書かれていたらそれほどそそられなかったのかもしれないけれど、「ぶどう酒」という響きは妙に魅力的なのだった。そしてまさに、あまくて“ぶどう”感いっぱいのその飲み物は、ワインというより、ぶどう酒と呼ぶのにふさわしい味わいだった。

 ものの名前の持つ独特の響きにイマジネーションをかきたてられる。それはひと文字の違いとか、ほんのちょっとの“何か”なんだけれど、その何かが私の中で決定的な違いを生む。食べものであれば効果は絶大だ。

sweets_baumkuchenたとえば、バウムクーヘン。もう、これは絶対的にバウムクーヘンであってほしい。バームクーヘンだと、頭に浮かぶのはコンビニとかで売られている特にインパクトもないフツーのお菓子でしかない。一方、バウムクーヘンはメルヘンな気分とともに、ちょっとした高級感を伴って、幾重にも層が重なったあのしっとりとしたクリーム色のヨーロピアンな雰囲気をまとったお菓子を想像させる。私のなかでは、バームクーヘンはバウムクーヘンにあらず、なのである。

 ひとり旅で香港を訪れたときのこと。ぶらりと入った食堂に日本語のメニューがおかれていた。ピータン、大根もち、おかゆなど馴染みある料理のなかに「やきそげ」というのがあった。やきそげ? これは、何だ!? おこげの一種みたいなものか。アツアツのあんがかかって湯気がたっているきつね色のやきそげのイメージが浮かんで、心が浮き立った。未知の食べものを体験できるなんて、はるばる香港まで来たかいがあるというものだ。

 注文したやきそげを待つあいだ、舌なめずりをする勢いで想像をふくらませて楽しいひとときを過ごした。しかし、食堂のおばちゃんが運んできたのは、何の変哲もないやきそばだった。無造作に置かれた皿に盛られていた「やきそげ」は、具も少なめでオール麺に近かった。しかも、想像したやきそげよりもだいぶ茶色い。もう焦げ茶色と言ってもいいほどだった。やきそげ株は私の中で暴落した。なんだ、ただの間違いだったのか。そう思うと口惜しかった、いろんな意味で。

 まあ、ときに失敗はあるけれども、魅力的な響きをもった食べものに出会うと、イマジネーションは大きくふくらみ、食指がうずうずと動き、楽しいのである。・・・だからやせないのか。・・・にゃるほど。

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