幸福の黄色いあわまんじゅう

写真 金曜日の夕方、「今日はどこか行くの?」と聞く同僚に、私は「ええ、まんじゅうを買いに」と微笑み、地下鉄を乗り継いで銀座駅へと向かった。お目当ては駅構内で開かれている福島産直市のあわまんじゅうである。ポスターを見つけたときから、この日はあわまんじゅうを買いにいこうと決めていたのだ。

 粟であんこを包んだ黄色いあわまんじゅう。私の育った町に、あわまんじゅうを売る和菓子屋があった。高校生のとき、授業中、退屈してぼーっとしていたら、ふと黄色いあわまんじゅうが頭に浮かんだ。その瞬間から、頭の中が黄色いつぶつぶで一杯になった。もう何を差し置いてもあわまんじゅうが食べたくて仕方なくなって、その日は授業どころではなかった。いつもより長く感じる授業を何時間もやりすごし、やっと放課後がやってきて帰宅すると、私は父に頼みこんで車を出してもらい、あわまんじゅう獲得へ向かった。さあ、ようやく目的地である和菓子屋に着くと、私は車から飛び降り、のれんをくぐりぬけながら叫んだ。

「あわまんじゅうくださ・・・」
 かぶり気味に店のおばちゃんが言った。
「午前中で売り切れちゃったんだよねえ」
「・・・」

 予想もしなかった現実に直面して、私は絶句した。あわまんじゅうが売り切れているかもしれないなんて想像もしなかったのだ。あわまんじゅうを食べることだけを楽しみにその日を過ごしてきた私の期待は、ふくらみすぎて裏切られて破裂した。つらい現実を受け止めきれず、私は店の軒先で涙ぐんだ。

 ショックのあまり頭が真っ白になり、あの日のその後の記憶は残っていない。でも翌日に父が「気のすむまで食え」と言って、大量のあわまんじゅうが入った紙包みを、少し乱暴に私の目の前に置いたのを覚えている。紙包みはドサッと重い音をたてた。20個は入っていただろうか。高校生にもなって、まんじゅうが食べられなかったという理由で泣く娘が父は歯がゆかったのだろう。私は別にあばれはっちゃくではなかったけれども、「父ちゃん、情けなくて涙が出てくらぁ」という心境だったのではないかと思う。目の前に積み重なったあわまんじゅうの黄色い山から、父のそんな気持ちが愛情と複雑にからみあい、ひしひしと伝わってきて、いくらなんでも、こんなに食べられないよ・・・と思ったけれど何も言えず、それから数日間、私はひたすらまんじゅうを食べ続けた。 

 OLYMPUS DIGITAL CAMERA6時頃、銀座駅に着いて日比谷コンコースへ向かうと、福島の名産が置かれたブースが見つかった。ハッピを着た売り子さんに、「あわまんじゅうがほしいんですけど」と告げると、「ああ、もう売り切れちゃいました」とにこやかに即答された。  

 私はおとなになったし、いろいろ経験も積んできた。だから、まさかまんじゅうくらいで・・・と思ったが、やっぱりダメだった。しかも今回は、またもやあわまんじゅうが買えなかったショックと、この歳になってもそんなショックを受けている自分に受けたショックとのダブルパンチ。立ち尽くす私に、「2時ぐらいにはもう売り切れちゃったんですよ」と、うれしそうに売り子さんがたたみかける。ちょっと腹が立つ。そんな情報をもらっても、私にとっては傷口に塩を塗られるようなものだ。産直市は翌日もあるが、勤務時間と重なるためチャンスはこの日だけだった。それなのに。私の気持ちなど知る由もなく、赤べこがのんきな顔をして頭をゆらしているのが私の切なさをかきたてた。

 はこあの時は、翌日父があわまんじゅうを買ってきてくれたが、もうそんなわけにもいかないんだなあ、嗚呼、東京砂漠でひとりぼっち、と打ちひしがれながらトボトボと歩いていると、友だちからLINEで飲みの誘いがあり、近所の居酒屋で会うことになった。

 友だちにあわまんじゅうが買えなかったつらさを訴え、なぐさめてもらうと、ハイボールのおかわりをする頃には気分もだいぶ盛り返したが、店を出て友だちと別れ空を見上げると、雲の切れ間から黄色く丸い月が顔をのぞかせていて、また何とも言えない気持ちになった。あわまんじゅうは、どうしてこうも私に試練を与えたもうのか。そして私はなんて非力なのだろう、と思った。

 翌日、あわまんじゅうのことは頭から追いやって仕事をしていたが、ランチタイムにケータイをチェクすると友だちからLINEメッセージが届いていた。
「ゲットしたよ!」

ま、まさか・・・と思いつつ、期待をしてはいけないと気持ちをおさえ、「何を?」と返信すると、あわまんじゅうの写真が送られてきた。取引先が近くだったからね〜と言っていたけれど、わざわざ買いにいってくれたみたいだった。うれしくて泣きそうになった。

  そんなわけで、私が前日買えなかったあわまんじゅうは、またしても翌日届けられたのだった。あきらめていただけに、喜びも美味さもひとしおだ。雨が降ったあとには虹が出る。たかがまんじゅう、されどまんじゅう。私にとって、黄色いあわまんじゅうは、親と友だちのありがたみがつまった、涙と感謝なくしては食べられないあま〜い幸福のたべものなのである。

あわまんじゅう

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