がんばってB賞

 たま〜にカラオケにいくと、採点方式というシステムがあって点数が出るのだが、これがなかなか伸びない。う〜ん、やっぱり「がんばってB賞」だなと思う。

 中学3年生のとき、家から遠く離れた海辺の病院に入院していたことがある。もう20年以上も前だ。そうだ、あれは平成元年だった。

 私は4人部屋で年配のおばさんたちと生活をともにしていた。毎朝起きると、まずは全員から徴収した100円玉の中から1枚、テレビに投入する。懐かしの1時間100円の有料テレビだ。でもお金を入れるのは最初だけで、あとは代々入院患者に受け継がれてきた、ティッシュボックスの紙で作ったブーメラン型のスティックを硬貨投入口に突っ込んでスイッチを押すという技を使う。それでテレビは1日100円ぽっきり見放題だった。

 おばちゃんたちは『ルックルックこんにちは』というワイドショーの「女ののど自慢」というコーナーを楽しみにしていて、時間が近づくとティッシュボックスを引き寄せて待機する。この一般人参加型コーナーでは、参加者の人生ドキュメントが紹介され、そのあとに参加者が歌を披露し、それを数名の審査員と会場の主婦たちが審査するという形式を採っていた。商品のランクごとにA賞からCかD賞ぐらいまであったような気がするのだが、狙った賞の合格点をクリアすれば商品を獲得できた。

enkakasyu 参加女性の多くが波瀾万丈な人生を送っているのだった。離婚、蒸発、夫の暴力、借金。そんな単語が何度も出て来た。ちょっと幸せになったかと思うと、「ところが!」とか「しかし、そんなある日!」とか、ぐいぐいとナレーションに逆接が割り込んできて、人生が一転する。彦摩呂風に言ったら、「まさに人生のジェットコースターや〜」って感じである。女性たちの不幸な身の上話に、準備万端のおばちゃんたちはティッシュを何枚も何枚も引っ張りだしては目頭をふき、鼻をかむ。

 たいていの参加者女性は、苦労に満ちた過去を克服して穏やかな日々を送っており、横断幕を持った家族や友人たちの応援を受けて熱唱するのだった。でも中には、まだ借金を返している途中ですとか、夫は蒸発したまま、という人もいたような気がする。それでも、彼女たちはおめかしをして笑顔だったし、歌の世界に没頭して熱唱するのだった。そして同室のおばちゃんたちも、さっきの涙はどこへやら、やいのやいのと参加者の歌について感想を言いあうのだった。すごいな、女の人って。ブラウン管の中の女性や同室のおばちゃんたちのたくましさに感動すら覚えた。

 人の不幸は密の味なのだろうか。素人である主婦の審査員たちの点数は、大いにドキュメントの内容に左右された。不幸は一言でくくれるものではないが、不幸であれば不幸であるほどポイントが高かった。それが人情というものなのかもしれない。波瀾万丈どころか順風満帆な人生ドキュメントを披露されると、少し物足りなくなって、もっとちょうだいという気分になるのだった。ただ歌がうまいだけじゃ、面白くない。不幸でなければ。

 A賞はとてもハードルが高かった。まず、抜群に歌がうまくなければならない。そして、かつ不幸レベルが高いことが求められる。一方、C賞はそれほど難易度が高くなかったから、「C賞でいきます」という守りに入っている感じの参加者がいると「やる気だせ!」と心のなかで野次を飛ばしている自分がいた。たいていの人がB賞を狙った。馴染みのあるフレーズが「がんばってB賞」というやつである。誰でも長いこと生きていれば、それなりの苦労がある。歌がそこそこで人生もそこそこならば、主婦審査員の温情なんかも受けちゃったりして、“がんばれば”、B賞が獲れるのだった。

 テレビを見ながら、将来自分が「女ののど自慢」に出ることを妄想した。私はそれほど歌がうまくない。ならばドキュメントで勝負するしかあるまい。しかし、余裕でB賞に届くほどの波瀾万丈の人生はしんどい気がするし、かといってC賞で終わる人生も味気ない。なにごとも、ほどほどがよい。平凡がいちばんなのよ、って誰かが言っていたな。「よし、目指せ!がんばってB賞」と心に決めた中3の初夏だった。

 その頃、美空ひばりが亡くなった。ワイドショーを見ながら、同室のおばちゃんたちは「昭和が終わったねえ」と言って泣いていた。その姿に、昭和の歌姫・美空ひばりのすごさを痛感し、確かに「昭和」が遠のいていく感じがしたのを覚えている。

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