えんま堂のおばちゃんとみかん

数年前の冬、京都の千本えんま堂を訪ねた。

閻魔大王は、泣く子も黙る地獄の裁判官。怒っている。すごく怒っている。 嘘をつくと舌を抜かれると噂され、ひたすら怖いというレッテルを張られたりしているけれども、彼には彼なりの事情がある。亡者を裁き、罪人を地獄へ落とすことは閻魔大王の役目であるが、亡者に苦しみを与えることは罪となる。その罰として閻魔大王は日に三度、銅の煮え湯を飲まされるという拷問を受ける。それは、亡者が地獄で受けるどんな拷問よりも過酷だと言う。それでも、閻魔大王はこの世が良くなることを願って自分の役割を果たし続けるのだ。

それを知った時、捨て犬にエサをやっている不良少年を見たかのように胸がきゅんとなってしまった。 以来、すっかり閻魔ファンになった私は、方々の寺で彼を見かけるたび、「あたしはわかってるよ」と心でつぶやく。

そんな私にライバルが現れた。えんま堂のおばちゃんである。

拝観希望の旨を告げると、堂内に招き入れられた。3メートルもの閻魔像は、こぼれおちそうなほどの大きな目をむき出し、やっぱり怒っていた。 うっとりしながら、閻魔大王が好きなのだと私が告白すると、おばちゃんは「んまあ、きっと閻魔さんもあんたのこと好きや言うてはるわあ」と顔をほころばせた。歳は七十前後だろう。小柄で色白のおかっぱ頭。若々しくてかわいらしい人だ。彼女もまた閻魔大王ファンだった。「ひとり暮らしやけど寂しくない。閻魔さんのそばにいるから幸せ。生きてるのが楽しいの」と言って笑う。訪れる人があると、ご利益があるからと御下がりのみかんをひとつずつ渡していた。

そばにいるから幸せなんて、勝てないなと思った。私は自分の居場所をさがしあぐねていたし、どうしたら幸せになれるのだろうと迷ってばかりいた。そんな私の心の揺れをおばちゃんは感じ取ったようだ。別れの時、私の両腕をがしっとつかみ、じっと目を見て言った。えんま1

「あんた、その笑顔を忘れずにがんばらなあかんよ」 そして、みかんをふたつ、私の手に握らせてくれた。

スーパーや八百屋の店先にみかんが並ぶ季節になって、あの橙色を目にすると、おばちゃんを思い出す。 がんばらなあかんな、と思う。そして、木枯らしに身をすくめながらも、ちょっと暖かい気持ちになるのである。

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